りんごの木との挨拶
りんごの木との挨拶は2月でした。
畑を借りている師匠とJAの方に剪定のやり方を指導していただいた時です。
「日当たり」「作業性」「薬がかかるか」などを考え、腐乱病がないかどうかを確認して、大きな枝から小さな枝を剪定していきます。
でも、これがとても難しい。
どれをどうすればいいのか迷いまくります。
師匠は「好きなように切っていい」と言うが、とてもそんな風にできない。
それでも切らなければならない。
何が何だかわからないまま、とりあえず切ってみる。またちょっと切ってみる。
すると森全体がザワザワしだした。ガサガサ、ゴソゴソ、ゾワーッ。
後ろに誰かがいるような気さえしてきた。
振り返る。誰もいない。いるのは木だけ。
誰かに見られているような空気の中剪定を進めていきました。
ゆっくり、ゆっくり、考えながら、確認しながら。
枝に肩を叩かれたり、帽子をとられたり、服をつかまれたりするうちに、
ふと、気がつきました。
「木に聞けばいいじゃん」
「木のことは木に聞けばいいじゃん」
風で枯れ葉が躍る中、神経を集中して木に聞いてみました。
「どれを切ればいいんですか?」
沈黙。でも、何かを感じます。「だるまさんが転んだ」のみんなが止まっている状態。
もう一度。今度はハサミをゆっくり左右に動かしながら、
「どれを切ればいいんですか?」
すると、枝の方から「これです」と示してくれたのです。
違うのを切ろうとすると、「違います」とも言ってくれます。
私はどんどん楽しくなってきました。
「どれかな〜?」「これかな〜」などと言いながら、チョキチョキ進めていきました。
まるで、床屋さんのように。
そう床屋さん!
全く知らない人にいきなり髪の毛を切られるようなもんだ。
そりゃ、木も不安になります。
それから私は、畑に行くたびに木に挨拶します。
「おはようございます。よろしくお願いします」
そんな風に剪定を進めた2月、3月でした。
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